3 使者来訪  フェデオン暦199年12月29日。フェデオン200年記念祭まで後二日と迫った フェアリア星ドリアード地区の巨大都市ビッグウッドでは、ある騒ぎが起こっていた。 この日、双星の片割れであるガイア2星から、記念祭式典に出席する代表団が到着する 予定であった。しかし、巷に溢れる噂では、先日の夜にフェアリア星首脳陣に対し、 式典に参加しない旨の電子メールが届いたというのだ。 「俺達がこんなに苦労して式典の施設作ったのに、来てくれないなんて、  どうなってんのかね、まったく」 イーグリッドは不機嫌そうに言う。 「まあそう言うなって。俺達ゃ金が貰えて、メシが食えりゃなんだっていいさ。」 ケネスが答える。この二人は今もワークアーマーWA-070B型を操って周辺施設の工事を やっていた。式典に集まるであろう膨大な民衆を飲み込む宿泊施設の一つだ。  数個のユニットを組み合わせると客室が1個出来上がる。途中で各部屋の標準設備 として冷蔵庫やユニットバス等を入れておく。1フロア分の客室が組みあがると、 その上に次のフロアの土台になるユニットを置いていく。土台が置かれて安全が確認 されると、イーグリッド達ワークアーマー作業班はまた、客室を組み上げていくのだ。 その間に、下の階の各客室の内装が調整されていく。それをくり返していくと、 みるみるうちに10数階のビルが完成していくのだ。  このユニット工法は建造・解体がとても容易となるのだが、その仕組みから構造上 20階程度のビルが強度的に限界となってしまうのが欠点と言えた。つまりは、 今回この手のビルを乱立させる結果となっていた。18階まで作った頃、イーグリッド のすぐ横の高さへ、縦長の長方体がせり上がってきた。 「かごが上がってきたぜ、ケネス」 「OK、ここは3個か」 イーグリッドがかごと言ったのは、いわゆるエレベーターの人が乗る箱の部分。 そのかごが1個程、小型の飛行機のような物に乗せられて運ばれてきた。 この小型飛行機もどきは、無人機で遠隔操作もしくはあらかじめ設定されたプログラム によって飛行し、貨物を運搬するLTAP(Load Transport Air Plane:略してエルタップ: 貨物運搬飛行機)と呼ばれる装置でアークアーマー使用作業員の運搬にも利用される。  小型ながらも最大積載重量は大きく、ビル工事では良く利用される。反重力バラスト 機構を採用しており、昔の機械のように炎を吐きながら飛んだりはしない。 反重力とは落下せずに浮いてしまう力。重力に反発する。どうなって実現されている かは、よくわからない。人類がまだ地球上にいた頃、宇宙飛行士が回収した宇宙空間の 浮遊物に反重力作用のある物体があり、それをまねて製造されているとも言われている。 その物体に電圧を加減してやると効力を制御できるようだ。回収者と研究者の名前を 取ってマイノライス・コアと呼ばれている。マイノライス・コアは大きい物が製造 しにくく、一般的に実用化できる物が採用されていてLTAP程度の物になる。  イーグリッドはかごを持ち上げてケネスに渡す。 「はいよ。これは1号エレベーターに入れるぞ。」 ケネスはそう言うと、かごを1号エレベータ用の穴にゆっくりと落としこむ。 かごの側面に出ているギア・ホイールが内部のレールにつくと、かご自体の動力が 働き、自力でゆっくりと下に降りていく。このかごは最下層まで自動的に降りて 停止し、ユニット式ビルに付き物の制御室コンピュータからの指示を待つ。 「これで最後のかごだ。」 イーグリッドが3号エレベータ用の穴にかごをゆっくりと落としこむ。 「後は屋根だな。」 エレベータ用穴を塞ぐユニットを取り付け、その上に全天候型高耐久性プレートと 呼ばれる風雨・雷への対策が施されているユニットを被せていく。 このビルが出来上がるまでに要した時間はわずか1週間。ユニット工法がもたらす 効果である。 「やっとこのビルも終わりだな。」 「ふいー、ワークアーマーでも疲れるもんは疲れんなあ。」 ケネスはそう言いながら空を見上げた。既に夕焼けが終わりかけて1番星が輝いている。 そこに流れ星のような強い光が視界に入る。 「お、流れ星じゃねーの。お金持ちになれますように、ってね。ん?」 ケネスの声にイーグリッドも空を見た。 「流れ星・・・にしては遅いな?」 イーグリッドも変に思えた。長く尾を引いた輝きを二人は凝視していた。 突然。二人のワークアーマーの無線から声が聞こえた。 「お二人さん、早く乗ってくれよ。お迎えに来たぜ。」 LTAPよりも少し大きな飛行機が、すぐ側まで上がってきていた。反重力仕様のホバー クラフトのような感じの乗り物で、有人機だ。ワークアーマーを3機乗せられる サイズでワーク・クラフトと呼ばれている。ワークアーマーを使用したビル建設に おいては、最後にこの乗り物でワークアーマーごと作業員が降ろされる。 「ベッケン班長、ご苦労様です。あれ、何でしょうね?」 イーグリッドはワーク・クラフトを操縦してくれているベッケンに、 ワークアーマーの指で方向を示して質問をした。 「うん?」 ベッケンはコクピットのボタンとレバーを幾つか操作する。ワーク・クラフトの 周囲確認用カメラの1個が、指の先を映しだす。しばらくして、ベッケンから返事が 返る。 「ああ、こりゃあガイア2のお偉いさんの宇宙船だろう。確か、今日来る予定だったと  思ったが・・・」 「来ないって噂が有ったのは?」 「おいおい、噂は噂で事実という証拠が無いだろう? だから何もおかしくないと  思うが」 「まあそうですね。」 不に落ちない、そんな表情を浮かべながらイーグリッドは、ゆっくりと ワーク・クラフトにワークアーマーの足を乗せた。 「いいじゃねぇの、俺達が作った建物を使ってくれるんだろ?」 ケネスもワーク・クラフトに移動する。 「そうだよな。」 ケネスの言葉に少し明るい笑みを浮かべたイーグリッドは、なんとなくラジオ受信 スイッチを入れた。この時代になっても、音声のみの情報配信であるラジオ放送は 生き残っていた。もしもの事態には、最も単純な器材で最も広範囲に情報が伝播出来る ラジオが好まれたためだ。ラジオからは丁度、その飛行物体についてのニュースが 流れていた。 「ザザ・・・記念祭に参加するため、ガイア2の代表団を乗せたカーゴスが今、  フェアリアの大気圏を通過中との事です。」 聞きなれた女性アナウンサーの声が、疲れた体に心地好く聞こえた。 「ちゃんとフッキング・ハンドル引いとけよ。行くぞ。」 ベッケンの号令が響いた。イーグリッドとケネスは、ワーク・クラフトから出ている 取っ手をワークアーマーの手で引いた。その取っ手に連動して足の部分にロックが かかり転落防止が出来る仕組みだ。イーグリッドとケネスは一瞬の無重力を感じた。 ワーク・クラフトが降下を開始した為である。まもなく地面に着こうとした頃に、 激しい閃光を見た。 「なんだ?」 イーグリッドは上空を見上げた。 「ありゃ?さっきのカーゴスじゃねぇのかよ?」 ケネスの声とほぼ同時だったかもしれない。ラジオからも絶叫が聞こえた。 「大変なことになりました! ガイア2からの代表団を乗せたカーゴスが、空中で  大爆発を起こしました! 何が起こったのかわかりません! しかしあれでは  乗員が助かる可能性は皆無と思えます! 大変なことになってしまいました!」 イーグリッドが見た空は、カーゴスの炎に照らされて夕焼けのように赤かった。
次回予告(ぉ ガイア2からの代表団を乗せた輸送船カーゴスが謎の大爆発を起こした。 フェアリアとガイア2の両政府が混乱を来たしている中、思わぬ展開に! 次回、どうして!? 第4話「宣戦布告」 乞うご期待!! 人類は、この戦いに勝利を見出せるのか?


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